一年ぶりに靴を履き…(「伊吹憧憬」-2)

「伊吹憧憬」-2


   一年ぶりに靴を履き…
                                                        2006,8,27

   8月25日。
   ほぼ一年ぶりに靴を履いた。いよいよ伊吹山に登るのだ。
   登山が趣味?
   ではない。山に登ったことは皆無に等しい。
   ただ、伊吹だけは違う。なぜだか私にも解らない。
   多分、滋賀県に引っ越して20余年。どこかに引っかかっていた
   としか言いようがない。
   言挙げした日本武尊に懲罰を与え、殺したという山神に惹かれていたと言えば
   恰好がいいかも知れないがそれほど神話伝説に関心はない。
   どこかで、東は伊吹まで。西は京都、南は奈良、北は若狭と決めていた。
   だからだろう。
   去年9月に痛む足で出かけたが、諦めた。
   登れるわけがなかった。ただ、そばへ行きたかっただけだ。
   ――靴が履けるようになったら…
   虎視眈々と機会を窺ってきてやっとその日がきたというわけだ。
   正確にいうと8月21日、棚田の「畑」へ行ったとき履き試しをやっている。
   ――どこまで登れるか、やってみよう
   最初から頂上まで行く気はない。できるはずもない。無理はしない。
   ゆっくり、
   のんびり、
   匍うように…登った。



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   伊吹は結構美男(美女)だ。

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   花の写真を撮りつつ……。
   ゴンドラ(三合目)から五合目まで1時間半。
   健脚ならとっくに頂上だろう。
   でも満足だ。景色がすがしい。
   しばらくぼんやりして、Uターン。
   ちょっと恥ずかしい。
   が、私にとって下りが難関。
   爪先、踝、膝に軽い痛みがある。
   それがなんとも心地よい。というのは、
   予想外に痛みが軽いからだ。
   用心しても滑る。
   「注意、注意、ゆっくり、ゆっくり」と口に出す。
   難関は難関だが、人の十倍スローで行けば大丈夫だ。
   途中、80代と思える老人とすれ違う。
   「頂上を目ざす」と言う。
   笑ってはいるが息が荒い。
   私よりさらにゆっくり登っていく、
   その後ろ姿が私に語っている。
   ……。
   ――この次は儂も頂上を目ざそう。
   まもなく、下山する男性が私を追い越すかと思うと急に速度を落とし、
   話しかけられる。
   「私も登山をするまで足が悪くてね」
   彼は三合目まで私の歩調に合わせてくる。
   「今では痛みもなくなってね」
   と、花の名や見頃、撮った写真のことなどを語ってくれる。
   「じゃあ、私はこっちへ…。お大事に…」
   「あ、そうですか。…ありがとうございます」
   彼は三合目の登山道の方へ消えて行った。
   私はこころのなかでにっこり笑った。


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   若い家族連れとすれ違う。
   ズンズン登っていく。
   私は、
   ――また近いうちに来よう。
   と考えていた。

   下山した私は、
   ――まだ時間はある。ドライブ・ウェイの方へも行ってみよう。
   と車を走らせた。



          花の写真は次回から載せることとします <(_ _)>