猿も、鹿も怒っとんにゃ(棚田の「畑」-42)8画像
早「はさかけ」も消えていく「畑」の田園風景。
カメラを下げて「畑」のメインストリートを歩いていると
農夫が丁度一休みするところに行き合った。
向こうから気軽に
「いいのが取れたかね」
出遭う村人はみな同じことを訊く。
「さあ?」
返事はいつも決まっている。
いいかどうか、私には解らない。
そんなことより撮りたいだけだ。
「どこから来た?」
また同じ問いに出会う。
住所を言って「隣町です」と付け加えると、
「ほぉ」などという嘆声は決して聞けない。
「すぐ隣だ」
素っ気ない反応がきまりだ。
農夫はこっちの都合など考えないで、いろいろと話してくれる。
「山の仕事の方が楽だ」
―― ? 、よく解らない。
日本の林業は絶対的な後継者不足に苦しんでいる。
いや、もう死にかけているとさえ言える。
食えない。
「畑仕事は年寄りには応える」
聞けば80歳だという。
刈り取りが済んだ小さな一枚棚田に畝を作って
ほうれん草を植えるという。
なぜかいつも遠くを見るような視線。
急に
「鹿が怒っている。猿も怒っとる」
と言い出した。
老人はどうも山の木々を眺める癖があるようだ。
「昔は…」と指を指しながら
「あの山は全部栗林やった…。
それを全部杉にしてしもたさかい
食い物がなくなったんや。
猿も鹿も温和しう山で暮らしとったのに
喰うもんがなくなったさかい
しゃあないさかい人間のとこまで出てきよるんや。
猿も、鹿も怒っとんにゃ」
老人はやはり遠くを見たままだ。
私は老人が
眼前の自然でない自然の遠くにある自然を見ているような気がした。
畝作りの作業はまだ少ししか出来ていなかった。
「わしは丁寧に掘らんと気がすまへんにゃ」
おそろしく短い畝が真っ直ぐ
行儀よく三本ある。
別れ際、老人を撮らせてもらった。
私は「畑」で、初めて人を撮ることができた。
私はまだこれらの畦道をあるいていない。
ついでに「畑」で出遭ったボロボロ???蝶
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