アヤメ一輪 祖父のこころ

   6月29日
   つまり昨日、母が「庭にアヤメが咲いたから
             写真をとってくれ」と言った。
   聞けば、母の父親が大切に育てていたアヤメだという。
   「私だけに譲ってくれた」と
   声小さく呟いている。
   大切な形見なのであろう。
   母が嫁入りしたとき、持ってきたものは
      現代の子どもなら顧みないような代物の
      小さな おもちゃのような鏡台一つと
      衣類が数枚だったそうだ。
      ちゃぶ台はミカン箱に新聞紙を貼って作ったそうだ。
   父親は娘の嫁入りにほとんど何も用意できなかった。
   日本中の百姓が貧しかったのだ。
   その父親が譲ってくれたアヤメ。

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   父親は原爆手帳を持っていた。
   それを誰にも言わず暮らしていた。
   死ぬ数年前に、母だけにそのことを漏らした。
   被爆者差別を恐れていたのだ、という。
   その父親が譲ってくれたアヤメが咲いて
   母は静かに喜んでいる。            

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   今日も、祖父のアヤメが一輪だけ、美しく咲いている。

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